離婚後の名前 考えていますか?
知っておきたい氏と戸籍の話
今回は”離婚後の名前”、つまり、氏(姓・名字のことで、以下は氏と表記します)と戸籍についてのお話です。
過日、衆議院議員選挙と最高裁判所裁判官の国民審査が行われ、その際にも候補者や国民審査を受ける裁判官が「選択的夫婦別姓制度」をどう考えているかに注目が集まりました。夫婦別姓への賛成意見は年々増加傾向にあり、世間の関心も高まってきていることがわかります。
しかしその前提として、まずは氏と戸籍のあり方をしっかり理解しておく必要があるでしょう。
ここでは「離婚」との関係を中心に解説していきたいと思います。
氏とは?
前述のとおり、姓や名字のことを民法では氏(うじ)と読んでいます。これに名(名前)を合わせた氏名は個人を特定する基本的なもので、日々の生活を円滑に行うためにとても重要なものです。氏は出生に始まり、婚姻や離婚、養子縁組などにより変動する可能性がありますから注意が必要です。
戸籍とは?
氏名のうち、氏は民法上に規定があり、名は戸籍法に基づく出生届によって初めて示されます。また、婚姻や離婚、養子縁組、死亡などにより、個人がどうなったかを登録し、公証するのが戸籍の役割ということになります。戸籍制度は、家族や親族の身分関係、国籍などを登録し公証する重要な制度です。
離婚後の名前 はどうなるの?
離婚した場合に氏や戸籍をどうするのかは重要な問題です。
多くの場合、婚姻によって氏を変更するのは女性であり、その比率は年々減少傾向にあるとはいえ、依然として約95%と高い割合をキープしています。
また、離婚届には婚姻前の戸籍に戻るのか、新しい戸籍を作るのかについて記入しなければなりませんから、婚姻で氏を改めた配偶者は、離婚後に戸籍や氏をどうすべきかについて考えておかねばなりません。
可能であるなら、離婚を決意した時に決めておくほうがよいでしょう。
婚姻時に改姓したか否かで扱いが異なる
民法750条では、夫婦は婚姻時に夫または妻の氏のどちらかの氏を称することが規定されています。
その後に離婚した場合は、氏を改姓しなかった人(多くは夫)と、改正した人(多くは妻)で扱いが異なってきます。
まず改正しなかった夫は、離婚に関係なくそのままの氏を名乗ります。
ここで選択を迫られるのは、婚姻で氏を変えた人、つまり多くの場合、元妻ということになるのです。
離婚した場合、元夫の氏を使用していた元妻は、原則では婚姻前の氏(旧姓)に戻ることになっています。
これを復氏といいます。
ただし、もし復氏を望まないのであれば、離婚の日から3ヶ月以内に市区町村役場に戸籍法上の「離婚のときに称していた氏を称する届(婚氏続称の届)」を提出すれば、結婚していたときの氏を名乗ることができます。
もしこの3ヶ月を経過してしまうと、今度は家庭裁判所において氏変更の申立てが必要となります。
しかも、この場合は許可をもらうのに「やむを得ない事情」の立証が必要で、手続きが大幅に面倒になってしまいますから注意が必要です。
しかし、逆に考えれば、子がいない場合はこの3ヶ月以内というポイントさえ押さえておけばよいのです。実生活で問題となるのは、そのほとんどが子のいる場合の話です。これについては後述します。
離婚すると戸籍はどうなるの?
戸籍に記載されるケースは、出生に始まり婚姻や死亡、養子縁組などが考えられますが、離婚も主要な事由の1つです。原則的には、婚姻前に入っていた両親と同じ戸籍に戻ることになりますが、戸籍法ではこれ以外にも、離婚した場合の戸籍の変動について詳細に規定されています。
原則的には両親の戸籍に戻る
離婚すると原則的に、婚姻のときに氏を改めた妻は夫の戸籍から除籍となり、妻の父母のどちらかが筆頭者である戸籍に戻ります。これを復籍といいます。当然に氏も旧姓に戻ります。
新しい戸籍を編成する
復籍しない場合は、自身を筆頭者とした新しい戸籍を作ることもできます。
ただし、下記のようなケースでは必ず新しい戸籍を作る必要があります!
~新しい戸籍を作らなければならないケース~
1、妻が「離婚の際に称していた氏を称する旨の届」 をした場合この場合、旧姓の両親の戸籍に入ることはできませんので、この届出によって自身を筆頭者とする新しい戸籍ができることになります。
2、妻の父母の死亡等により、婚姻前に妻が入っていた戸籍が除籍されていた場合
この場合も旧姓の両親の戸籍に入ることができませんので、上記と同様に新しい戸籍を作ることになります。
3、子を引き取るなどして自分の戸籍に入れたい場合
後に詳しく説明しますが、子の親権者となり、引き取った子を自身と同じ戸籍に入れたい場合には、必ず自身を筆頭者とする戸籍を作る必要があります。
旧姓に戻す場合に、復籍して両親の戸籍に戻るか、自身を筆頭者とする新戸籍を作るかは自由です。
そのため、両親の本籍地が遠方にある場合や、両親との関係から元の戸籍には戻りたくない、離婚後に心機一転したい、というような場合には新しい戸籍を作ることができます。
旧姓に戻して新しい戸籍を作る方法は?
旧姓に戻した場合でも、新しい戸籍を作ることはとても簡単です。
<離婚届を使って作る>
離婚届を出す際に、届出用紙の「新しい戸籍をつくる」にチェックを入れて、旧姓を筆頭者欄に書くだけでOKです。
<離婚を届出た後に作る>
離婚して一旦旧姓に戻った場合でも、分籍届をすることで新しい戸籍を作ることができます。
住民票に旧氏を併記できるって本当?
ご承知のとおり、個人の登録制度として戸籍のほかに住民票があります。
住民票は正しくは住民基本台帳といい、戸籍の詳細が戸籍法に規定されているように、住民基本台帳法という法律によって定められています。現住所を証明する場合には、住民票が一般的ですよね。
ちなみに、戸籍と住民票は「戸籍の附票」によってひも付けされています。
戸籍の附票には、戸籍の筆頭者をはじめ、同じ戸籍に入っている人のそれぞれの現住所が明記されています。一般的にはなじみが薄いかもしれませんが、戸籍の附票も戸籍謄本と同様に市区町村役場で申請することができます。
では本題ですが、現在は婚姻によって氏を変更した人は、住民票に1人につき1つだけ旧氏(旧姓)を併記することができます。手続きとしては、まず旧氏が記載された戸籍謄本(多くの場合は除籍謄本)を用意し、住所地を管轄する市区町村役場で申請すればOKです。
ただし、この時にマイナンバーカードが必要になります。
もしマイナンバーカードがなければ、この申請時にマイナンバーカードの発行も申請することになり、当然にマイナンバーカードにも旧氏が併記されることになります。逆に旧氏の併記が不要になった場合も、同様の手続きで旧氏を削除することができます。
この旧氏併記が可能になったのは最近のことで、2019(平成31)年11月5日に施行された「住民基本台帳法施行令等の一部を改正する政令(平成31年4月17日公布)」によるものです。
この改正は、旧姓で社会活動する女性が増えている実情をかんがみて閣議決定されたもので、注目が高まる選択的夫婦別姓制度につながる改正としても期待されているようです。
親の離婚で子の氏はどうなるの?
お待たせしました。ここからは子がいる夫婦が離婚した場合についてご説明します。
子の氏は戸籍筆頭者と同じままで変わらない
実は、両親の離婚によって親権者である母が戸籍から抜けたとしても、子の氏は当然には変更されません。子は父の戸籍に入ったままで、父の氏のままなのです。このことは旧姓に戻した場合でも婚姻時の氏を選択した場合でも同じで、子の戸籍は父親の戸籍に入ったままになります。つまり、親の氏の変更と子の氏の変更は全く別の手続きなんですね。
例えば、旧姓「鈴木」の妻が、婚姻後に「山田」となったあと離婚したケースで説明します。
<子の氏を「山田」から「鈴木」へ変更>
母親が旧姓の「鈴木」に戻したとしても、子は父親の「山田」の戸籍に入ったままになります。
繰り返しますが当然には変更されません。
そのため、子の氏も変更して「鈴木」にしたい場合には、子の氏を「山田」から「鈴木」に変更するため、子の氏の変更手続きを行う必要があります。
申立書への書き方はこちら↓
<子の氏を「山田」から「山田」へ変更>
では、母親が婚姻後の「山田」の姓を引き続き使用(続称)する場合はどうでしょうか?
実はこの場合も、子の戸籍は「父親の山田」の戸籍に入ったままです。
そこで、「母親の山田」の戸籍に入れるためには、ここでも子の氏を変更する手続きが必要になります。
えっ、「山田」から「山田」に変更する必要があるの?
ほとんどの方がそう思われるかもしれません。
法律上は小難しい理由があるのですが、ここでは割愛します。
要するに、法律上では父の「山田」氏と母の「山田」氏はあくまで違う氏として取り扱われているため、「山田」から「山田」への変更が必要になると覚えておいてください。
申立書への書き方はこちら↓
離婚した母の戸籍に子を入れたい場合の手順
上でご説明したとおり、離婚後に母が親権者となり、子を引き取って自分と同じ戸籍に入れることは、実務上最も多いケースと考えられますから、ここで実際の手続きの流れをご紹介しておきましょう。
1、新しい戸籍を編成しましょう!
戸籍法には「1つの戸籍には親子二代しか入れない」というルールがあります。そのため、自分の子と一緒に入る戸籍を作るためには、自身が両親の戸籍に入ったままではできません。このような場合には、まず事前準備として自身を筆頭者とする新たな戸籍を作る必要があります。
2、子の氏の変更許可を申し立てましょう!
次に家庭裁判所に民法791条による「子の氏の変更許可」を申し立て、子の氏を自分の氏と同じにする許可を得ることが必要になります。
家庭裁判所による子の氏の変更許可が出た後には、必ず子が親の戸籍に入籍する旨の届出をしましょう。
※入籍届をしないと変更の法的効果が生じません!
手続き自体は非常に簡単ですので、是非トライしてみてください!
裁判所に子の氏の変更届を出す手順↓↓↓
https://www.courts.go.jp/saiban/syurui/syurui_kazi/kazi_06_07/index.html
氏を変更した子は、成人後にもう一度変えられる!?
実は、前述しました「子の氏の変更許可」によって氏を変更した子(変更当時15歳未満の子に限る)は、成人から満21歳に達する1年間のみ、あらためて現在の氏(多くの場合、母の氏)と出生時の氏(多くの場合、父の氏)のどちらかを選ぶことが民法792条4項で認められています。
ここで出生時の氏を選んだ場合でも、手続きに家庭裁判所の許可は必要なく、市区町村役場への届け出だけで完了できます。また、子はすでに成年に達していますから、同時に自らを筆頭者とする新戸籍を編成することもできます。
婚氏は続称すべき?旧姓に戻るべき?
離婚した場合に、そのまま元夫の氏を名乗るのか、あるいは旧姓に復氏するべきなのか。子がいる場合は子の将来にも影響が及びますから、どちらを選ぶべきかは離婚した夫婦の考え方や生活環境、社会環境により個別具体的に検討されるべきですが、いずれにしても大きな問題であることに変わりはありません。
奇しくも選択的夫婦別姓の“離婚版”のような話ですが、ここでは離婚後に選ぶ氏について考えてみましょう。
婚氏続称のメリット
1、子の氏を変えなくてよい
離婚しても子の氏は元夫の氏のままですから、ことに自分が親権者となった場合には夫の氏を続称すれば、親子で苗字が異なるというような見た目上の不都合を避けることができます。これにより、子が学校などで周囲に離婚の事実を知られ、いじめに遭うようなリスクをおさえられます。
※同じ戸籍に入れるために氏の変更手続きは必要になりますが、あくまでも呼称が変わらないというメリットを記載しています。
2、離婚の事実をさとられにくい
氏が変わりませんから、職場や知人関係などにおいて、自ら公言しない限り離婚の事実を伏せておくことができます。
3、様々な登録の変更が不要
旧姓に戻ると、社会生活上のあらゆる登録において名前の変更手続が必要になることが考えられます。とくにスマホやPCのアプリでの変更は面倒ですが、婚氏を続称すればその負担を避けられます。
婚氏続称のデメリット
1、気持ちの整理がつきにくい
離婚に至ってしまったうえに、信頼関係が破綻した相手の名を名乗ることは、精神衛生上よいとは言えません。元夫との嫌な思い出を忘れようとしても、潜在的にずっとひきずられてしまう可能性も。
2、旧姓に戻れなくなる
旧姓に戻れなくなるケースが考えられます。例えば旧姓AさんがBさんと婚姻しBとなって離婚。そこで婚氏を続称し、次にCと再婚し再度離婚した場合には、名乗れるのはBかCのみで、旧姓のAは名乗れないことになります。
※ただし「やむを得ない理由」を主張し、自身の氏の変更の申立てを行えば、旧姓に戻れる可能性はあります。
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離婚後の名前 のことで焦る必要はありません
離婚後の氏については、子の年齢によって大きく扱いが別れます。
まず子が小さいケースでは、旧姓に戻しているケースが多いです。母親の本音として、子が氏名にアイデンティティを持たないうちは、元夫の氏を名乗り続ける理由がないと考えるからでしょう。
ご相談においても、小学校までに離婚して旧姓にしたいという「小学校進学」のタイミングでの旧姓変更を希望される方が多いようです。もし小学校進学前から別居し、離婚を検討していたような場合、離婚が進学に間に合わなくても心配ありません。近年の小中高等学校においては、各家庭の事情に合わせて対応してくれるケースがほとんどで、相談すれば子に有利な氏での進学を認めてくれます。氏のことで焦ってしまい、よく検討すべき離婚のことがおろそかになってしまっては本末転倒です。
一方、子が大きいケースでは多くの場合、氏について親子間で十分話し合って決めるのが普通です。各家庭により、親子で同じ氏を選ぶか別々にするかは様々です。あるいは母親が旧姓に戻したとしても、不要な場面では離婚の事実を極力伏せつつ、夫の氏を通称名として使い続けるケースもあります。いずれにせよ、離婚後の名前で焦ることなく、生活に合わせて柔軟に対応されることをお勧めします。
ご相談ください
人生のパートナーとの離婚はもちろん、その後の氏や戸籍をどうするかについては、簡単なようでなかなかに奥の深い問題です。そのような場合にはお一人で悩まず、ぜひ専門家へのご相談をお勧めします。
夫との離婚をお考えの方、自分や子の氏でお悩みの方、その他、氏や戸籍の問題について詳しく知りたい方はぜひ当事務所までご相談ください。
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