ご存知ですか?養育費の算定基準
親権が分かれたor再婚した場合は?
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養育費をもう一度おさらい
養育費とは?
これまで当ブログでも最重要トピックの1つとして取り上げてきたのが養育費です。
一般的に養育費とは、両親の離婚などの理由により、一方の親と離れて暮らすことになった未成熟な子どもの養育を目的として、離れて暮らす側の親が負担する費用として知られています。
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養育費はいらない代わりに親権が欲しい??
相手と離婚する際に、子の親権が欲しいばっかりに養育費を受け取らない選択をするケースがあります。ある意味、養育費で子の親権を買うに等しい交渉です。
しかし、ここで間違えてはいけません。
養育費は成熟途上にある子を監護するための費用であると同時に、子が親に対して持つ教育や養育を受ける権利、親の子に対する扶養義務から発生する費用ですから、養育費を払わない、あるいは免除するなどという夫婦間の合意は考えものです。
親は子に扶養を求められれば当然に応えなければなりませんし、未成年かつ幼少であれば、親に扶養を求めない子はいないでしょうから。
養育費はどう取り決める?
(1)まずは話し合いで
養育費は、子が一定年齢に達するまでの期間、定期的に発生する費用ですから、詳細かつ具体的に決めておくことが重要です。
月ごとの支払金額はもちろん、現金手渡しか振り込みなのか。振り込みなら口座番号などの情報、さらには毎月の支払期日などを明確に約しておきましょう。
子が成人するまで、あるいは大学を卒業するまでといった「期間」の定めも重要です。
(2)裁判手続きが必要です
話し合いができない場合に、離婚した相手方に養育費を支払ってもらうには、調停などの裁判手続きによって裁判所に決めてもらう方法が確実です。この調停はケースによってやや態様が異なります。
・すでに離婚は成立。養育費だけを決めたい場合
→子どもの監護に関する処分、すなわち「養育費請求調停事件」として申し立てる。
・離婚が未成立で、離婚調停と合わせて養育費を決めたい場合
→夫婦関係調整調停、すなわち「離婚調停」のなかで、養育費についても話し合う。
では次項からは実際に、養育費の算定についてみていくことにしましょう。
養育費の算定基準
(1)養育費の算定方法
ここでは裁判所が示した基準である「養育費・婚姻費用算定表」を参考にする方法をご紹介します。
近年、養育費をめぐる裁判手続きで最も一般的な基準となっています。
(2)裁判所の養育費算定表
養育費の請求は、民法上で保証された正当な権利ですから(民法766条)、不公平や差別的な扱いがあってはならないため、裁判所による明確な算定基準が設けられています。
したがって、原則的に養育費を決定する場合は、まず第一にこの基準が参考にされることになります。
現在の算定基準には、令和元年(2019年)12月に行われた最新の改正基準が反映されています。
算定表の見方は?
一見すると大量の数字の羅列にうんざりする方もおられるかもしれませんが、大きくは縦軸に支払い義務者の年収、横軸に子の監護者である権利者の年収が割りふられ、子の人数ごとの算定表が用意されています。それさえわかれば、さほど難しいものではありません。
子に関しては年齢や人数、親に関しては父母の年収とその職業が自営業か給与収入かどうかが金額に関係してくるしくみです。改正後の傾向としては、従来に比べ月1~2万円の増額が見込めるようになったと言われています。
家庭裁判所による養育費算定表https://www.courts.go.jp/toukei_siryou/siryo/H30shihou_houkoku/index.html
(3)算定基準だけでは決められないケース
しかし、個々の案件の事情により一筋縄にはいかないケースも少なくありません。例えば、離婚した親の双方が1人ずつ子を看護する場合などがそうです。しかも、その親が再婚した場合にはさらに複雑になりますので、実務では算定基準だけではなかなか決められず、調停手続きにおいて個別の案件ごとに審理して決定されるのが実情です。これらのケースは次項で詳しくみていくことにしましょう。
婚姻費用と養育費は別なの?
婚姻費用と養育費を簡単に説明すると以下のとおりです。
婚姻費用 → 婚姻期間中の夫婦と子供の生活費
養育費 → 離婚後の子供の生活費
このように、離婚の前後で呼び方が変わります。
婚姻費用には、配偶者の生活費も含まれますが、離婚後は夫婦間の扶助義務が無くなるため、養育費という子供だけの生活費を指す言葉になります。
このように、婚姻費用には夫婦の生活費が含まれるため、養育費よりも高額になります。
養育費が高くなるケースって?
一概に養育費といっても、その金額の多寡は様々で、当事者間による話し合いや裁判所の調停手続きによって決められることになりますが、少なくとも前出の算定表からは、次のような場合には養育費が高くなる傾向が読み取れます。
・監護親の年収が低い
・非監護親の収入が高い
・子の数が多い
・子の年齢が高い
以上の4条件が重なった場合には、比較的多額の養育費が期待できるかもしれません。
複雑な場合の養育費の算定
(1)監護権が分かれた場合の養育費計算
監護権が分かれた場合とは、例えば2人の子持ちの夫婦が離婚した場合に、父と母がそれぞれ子を一人ずつ監護するようなケースです。裁判所の算定表は、片方の親がすべての子を監護するケースに限られますので、スムーズに当てはめることができません。このような場合には「生活費指数」を用い、具体的に計算する必要があります。
生活費指数とは
生活費指数とは、生活扶助基準及び教育費に関する厚生労働省の統計に基づいて決められたもので、成人が必要とする生活費の指数を100とした場合に、子の生活費がいくつになるかを表した指数です。
現在、0~14歳の子は62、15歳以上の子は85として計算します。
例えば、父母と子2人(兄17歳、妹10歳)の4人家族で夫婦が離婚し、父が兄を、母が妹を監護。父は会社員で年収を700万円、母も会社員で年収を200万円とすれば、次のような計算で簡易的に養育費を算定することができます。
①17歳の兄の生活費指数は85、10歳の妹の生活費指数は62。
②両親の年収から導かれる養育費は10~12万円≒11万円
③この11万円を子の生活費指数の割合で分割。
④11万円×62÷(85+62)=約4万6395円
以上により、兄の養育費は約6万3605円、妹の養育費は約4万6395円になります。
(2)離婚後に再婚した場合の養育費の算定
再婚後も子に対する法律上の扶養義務がある限り、子を監護しない親は、引き続き養育費を支払い続けなければならないのが原則です。
しかし、離婚した元夫婦のどちらか一方、あるいは両方が他人と再婚し、どちらか一方、あるいは両方の親の再婚により扶養家族(子)の数が増えたり、新たな扶養義務者(再婚相手など)が増えた場合には、養育費を支払う側の親から金額の減額を請求される可能性が出てきます。
まとめると次のような場合です。
・支払う側の親が再婚し、扶養家族が増えた場合。
・受け取る側の親が再婚し、新たな再婚相手からの収入が見込める場合。
以下では、再婚したケースにつき、支払う側の親と受け取る側の親の場合を分けて、さらに具体的に見ていきましょう。
①支払う側の親が再婚した場合
養育費の支払い義務者が再婚した場合は、次の3つのケースに分けて考えます。
・支払う側の親の再婚相手の収入が少ない場合。
→再婚相手の収入が少なく、自己の生活をまかなうほどの収入がない場合、元の養育費に加え、新たな家族への負担を強いるのは無理があることから、この場合は養育費の減額を請求される可能性があります。
その一方で、再婚相手が共働きで一定以上の収入が見込まれた場合には、減額が認められないケースもあることが考えられます。
・支払う側の親と再婚相手との間に新たに子が生まれた場合。
→この場合は純粋に扶養家族が増えていますから、養育費を子の人数分で分けることになり、その分の
減額を請求される可能性があります。
・支払う側の親が再婚相手の子(連れ子)と養子縁組を結んだ場合。
→養子縁組をした場合は、法律上の親子関係となりますから、縁組が成立した子の数だけ扶養家族が増
えることとなり、この場合もその分の減額を請求される可能性があります。
②受け取る側の親が再婚した場合
この場合も同じく養育費の減額を請求される可能性があります。
ただし、養子縁組の有無により減額条件が変わることに注意が必要です。
・子が再婚相手と養子縁組をしている場合
→この場合、再婚相手と子が法律上の親子関係となり、再婚相手が子を扶養すべき義務を負うことになります。したがって、支払う側から養育費の減額や免除を請求される可能性があります。
ただし、再婚相手の年収が支払う側の年収より少ない場合には、減額を認めないケースもあります。
これは、非監護親のほうが再婚相手よりも経済的余裕のあるケースでは、再婚という事情だけで子の養育費を減額するべきではないとする考え方もあるためです。結局のところ、養子縁組をしているケースでは、事案に応じた適正な金額を算定する必要があり、その方法を一様に求めることはできません。。
・子が再婚相手と養子縁組をしていない場合
→この場合は新たな親子関係は発生せず、子の扶養義務はこれまで同様に養育費を支払う側の親に依存
しますから、原則として養育費の減額は認められないことになります。
今回のまとめ
今回ご紹介しました養育費の算定基準を、大まかにまとめると、以下のとおりです。
①原則的には裁判所の算定表を参照する。
②子の監護権が分かれた場合は、生活費指数などで按分する。
③次のような場合には、減額や免除を請求される可能性がある。
・離婚した親の一方や双方が再婚し、扶養関係が変わった場合。
・子が再婚者と養子縁組をした場合。
養育費の算定は、原則的には裁判所の算定表に示された基準額をベースに検討していくことになります。
しかし、ケースによって条件が異なるため、事案ごとの公平・公正な金額算定が求められなければなりません。
とくに監護権者が分かれるような場合や、監護権者・支払い義務者が再婚した場合、さらにはこれに養子縁組が関係する場合には、より詳細な検討が必要になります。場合によっては、養育費を支払う非監護親から、金額の減額や免除を請求される可能性があることには、とくに注意が必要です。
なお、子は再婚相手と養子縁組をしても、実父との親子関係は消滅しないため、実父の意向によっては、子は実父と養父から二重に養育費を受け取ることも可能ですし、2人の父からの相続権も有することになります。
ご相談ください
養育費は育てる親や子にとって大切な費用です。厚生労働省のデータによれば、離婚後に58.4%の人が養育費を受け取れていなかったり、16.1%の人が途中から支払われなくなったという報告があります。
その一方で、今回ご説明しましたとおり、その算定には事案に応じて様々な計算方法が存在するため、一様ではない側面もあります。
養育費の問題でお困りの場合には、ぜひ専門家へのご相談をお勧めします。
養育費を払ってもらえずお困りの方、養育費の金額について知りたいと言う方、その他、養育費について詳しく知りたいという方はぜひ当事務所までご相談ください。
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