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養育費がもらいやすくなったって本当?
~民事執行法の改正について解説します~

民事執行法ってどんな法律?

わたしたちの暮らしで、最も身近な法律の1つが民法。裁判や調停などで確定される法的手続きのうち、男女関係や経済上の問題のほとんどは、原則として民法上の規定が適用されます。
しかし、民法の守備範囲はそこまで。例えば、相手方に100万円の請求ができる勝訴判決を取っても、実際に払ってもらえなければ、判決はただの紙にすぎませんよね。

そこで登場するのが民事執行法というわけです。
民事執行法は、わかりやすく言えば、判決や和解調書など(債務名義といいます)をもとに、相手方の履行を促すための手続きやルールを定めた法律です。

民事執行法の改正って?

かねてから、裁判で争って勝訴しても被告が判決に従わなければ、原告は泣き寝入りするしかないケースが長らく問題視されてきました。これを払拭するために、大掛かりな改正が行われたわけです。
この改正はかなり画期的なものと言われています。

具体的には次の5つの事項になります。

①債務者財産の開示制度の実効性の向上
②不動産競売における暴力団員の買受け防止の方策
③国内の子の引渡し及び国際的な子の返還の強制執行に関する規定の見直し
④差押禁止債権をめぐる規律の見直し
⑤債権執行の終了時期の明確化

要するに、裁判の勝訴側が敗訴側から給付を受けやすくなるという方向性に大きくシフトした改正なのですが、ちょっとこれだけでは言葉が難しく、わかりにくいですよね。

そこで当サイトでは「離婚した夫婦間で問題になること」にターゲットを絞り、養育費の請求がしやすくなることについてご紹介していきます。上の5項目中では①にあたることになります。

改正ではほかにも、これまで相手方の同意や立ち会いがなければ実務的に難しいとされてきた「子の引渡し」についても、明文化されたことで大きな進展があるものと期待されています。

いつから施行されたの?

今回の改正内容は、2020年4月から施行されています。
まもなく1年になりますね。ではここからは少し詳しくみていきましょう。

なぜ養育費が請求しやすくなったの?

前述のとおり、従来は裁判で勝訴しても、被告(離婚した元夫など)が原告の請求に応じてくれないと、原告は多くの場合に泣き寝入りするほかありませんでした。

つまり、被告が転職してしまったり、行方をくらました場合がそうです。また、住所はわかっていても銀行口座を変えてしまったり、隠してしまったりするようなケースでは、裁判手続きによる執行(現金などの給付を求めること)が難しかったり、執行しても財産を隠されて空振りに終わることが多かったのです。

とくに離婚した夫婦間においては、養育費の支払いの滞るケースがたびたび問題となってきました。

相手方の給与の差押が容易に!

しかし改正法では、銀行などの金融機関から被告の口座情報を得たり、市区町村などには被告の勤務先などを照会することができるようになりました。

これにより、被告の口座や給与の差し押さえ(強制執行)ができるようになり、強制的に被告に払わせることができる可能性が高くなったのです。

なお、近年は大手金融機関において、この制度以前より債務名義を示せば全店照会(当該金融機関における本店・支店等全店に、口座があるかどうかを照会すること)に応じてくれるようになっています。
しかし、まだまだそうでない金融機関も多いことから、今回の改正で法制化されたことはとても大きな意味を持ちます。

さらに、養育費は定期的に発生するものですから、これまでも給与の差押などが非常に有効な回収方法とされてきました。そこへ、勤務先情報の照会が可能になったことで、回収可能性が飛躍的に伸びるのではないかと期待しています!

相手方のどういう情報が得られるの?

今回の改正で情報提供が義務化され、明文化されているのは、金融機関、登記所、市区町村などです。

①銀行などの金融機関
上の例でもあげましたが、最も支払いのスピードアップに効果的と期待されるのが、銀行などの金融機関から相手方の口座番号等を教えてもらう方法です。
さらには、口座番号だけでなく、支店名や口座の種類、金額まで照会することができます。ほかにも投資信託や株、電子マネーなどを含めたほとんどの金融債権に適用できることが明文化されています。

②登記所
従来、もし相手方が不動産を所有していた場合にこれを特定することはほとんど不可能でしたが、
登記所(法務局)から被告所有の不動産情報も得られるようになりました。
つまり、これらの不動産について強制執行することもできるようになったのです。

③市区町村等
さらには、市区町村等の自治体や年金事務所、公務員共済組合などから、相手方の勤務先情報等を得られる措置が取られました。
これにより、相手方の給料を差押さえる道も開かれたことになります。

<注意点>
確定判決や和解調書など(債務名義)を得ながら、養育費を払ってもらえない人にとって、これらの新しい措置が認められたことは画期的ですが、いずれも紛争とは直接関係のない第三者を巻き込んでしまう恐れがあります。そのため、実務上は十分な注意が必要で、現段階ではまだ判例もありませんから、今後の流れを注視したいと思います。

養育費の支払いを公正証書で決めていた場合も大丈夫?

公正証書は今回の場合も債務名義として認められていますから、相手方から養育費の支払いを得られていないのであれば、その記載内容をもとに強制執行の申立をすることができます。

相手方の口座がわかっても、執行は空振りにならない?

同法の改正による執行は、金融機関や法務局、自治体など、事情を知らない第三者機関の協力が必要になるため慎重に行われる必要があり、この第三者機関の協力こそが、最も重要なキーポイントになります。

なぜなら、支払いをしない相手方がこちらの動きを知らず、気づかれないうちに行わないと執行の効果が期待できないからです。そのため、手続きをスピーディーに行うことが望まれます。

但し、ひとたび第三者機関の協力さえ得られれば、もはや相手方が財産を隠すことはできなくなります。そうなるとむしろ、相手方に執行の事実を知らせたほうが、協力してもらった機関への負担も減ると考えられますから、執行の完了が確実となった時点で、執行の事実を相手方にも通知するべきであると考えられています。

ご相談ください

以上のように、民事執行法が改正され、養育費をはじめとした確定債権の取り立てが容易になることが期待されています。しかし、まずは裁判や調停で相手方に勝つことが前提となります。法律問題でお困りの場合には、ぜひ専門家へのご相談をお勧めします。

離婚した後に養育費を払ってもらえない方、裁判や調停などの法的手続きについて知りたい方、その他、養育費の請求について詳しく知りたい方は是非当事務所までご相談ください。

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弁護士一津屋香織(ひとつやかおり) 天神法律税務事務所
【地下鉄南森町2番出口から徒歩3分・キッズスペース完備】


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